パイプ銃自作の経緯が明らかに 火炎瓶襲撃は断念、「銃密売人」に小ばかにされ…山上徹也被告の孤独な決断

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2022年7月に起きた安倍晋三元首相銃撃事件。その衝撃から2年以上が経ち、いま改めて問われているのは、なぜ山上徹也被告(45歳)は「パイプ銃」という前代未聞の自作武器に手を染めたのか、という点だ。奈良地裁で進行中の裁判で、徐々にその経緯と心の闇が明らかになっている。

なぜ火炎瓶から銃へ──「より確実に殺せるもの」を求めて

検察側の冒頭陳述によると、山上被告は母親が旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に1億円を超える献金を行い、家庭が崩壊したことを強く恨んでいた。彼の最初の標的は、教団の最高幹部・韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁だったという。

2019年10月、韓総裁が来日した際、山上被告は火炎瓶を携え愛知県まで向かった。しかし実行には至らず、彼の中に「中途半端な武器では無理だ」という確信が芽生える。そこで考えたのが、「より確実に殺害できる手段」――つまり銃だった。

だが日本で銃を合法的に入手することは不可能に近い。彼はネットの闇市場へと足を踏み入れ、そこから悲劇の歯車が本格的に動き始める。

闇市場でのやり取り──「お前と遊びたいんじゃない」怒りのメッセージ

押収されたパソコンには、海外の銃密売人とのやり取りが残されていた。「薬、武器どんなものでも用意します」――そんな甘い誘い文句に山上被告は食いつき、「できれば小型で破壊力があるもの」と返信。拳銃1丁と実弾1発を注文し、仮想通貨ビットコインで約20万3千円を送金した。

だが、いくら待っても銃は届かない。焦燥に駆られた彼は「明日発送がないなら警察に行く」とメッセージを送るが、返ってきたのは冷笑ともとれる返事だった。

「こちらは海外拠点であり、結構です。お疲れさまでした。」

まるで小ばかにされたようなその言葉に、山上被告は激怒する。

「俺は拳銃が欲しいのであって、お前と遊びたいんじゃない。」

だが、その怒りは虚空に消えた。被告は完全に見放され、彼の中には「もう誰も頼れない」という絶望が残った。ここから彼は、孤独な自作の道へと突き進んでいく。

自作パイプ銃の製造──847点、約60万円の材料

山上被告はネット上の情報を頼りに、弾丸を発射する仕組みを一から学び始めた。ホームセンターや通販で購入した部品の総数は実に847点。費用は約60万円にのぼる。

奈良市内のアパートで何度も試作を重ね、発射機構の調整を繰り返した。彼の製作ノートには、火薬の調合や点火方式のメモ、失敗と改善の記録が詳細に残されていたという。まるで技術者の実験ノートのようだったというから驚きだ。

期間 行動内容
2019年10月 火炎瓶による襲撃を計画するも断念
2020年10月 闇サイトで拳銃購入を試み、仮想通貨で20万円送金
2020年10月中旬 売人から侮辱的返信、以後連絡途絶
2021〜2022年 ネット情報を基に自作銃を試作(計847点、約60万円)
2022年7月8日 奈良市で安倍元首相を銃撃

彼の行動は、決して突発的な犯行ではなかった。綿密な計画と執念があった。その執念の裏には、「誰も助けてくれない」という絶望が潜んでいたように思える。

公判の焦点──「個人の狂気」か「社会の歪み」か

奈良地裁で進む裁判では、山上被告の計画性や責任能力が争点となっている。精神鑑定の結果や宗教団体との関係性が、量刑にどう影響するか注目が集まる。

しかし私はこう感じている。この事件は、単なる個人の狂気だけでは片づけられない。宗教団体の金銭問題、家庭の崩壊、社会の孤立、ネット闇市場の放置。これらすべてが重なって生まれた“構造的な悲劇”なのだ。

誰かが「もう限界だ」と感じたとき、社会はそのサインを拾い上げられていただろうか。宗教被害者の支援も、家庭破産の救済も、すべて後手に回った現実がある。もし一人でも彼に手を差し伸べる人がいたら、この事件は防げたかもしれない。怒りと悲しみと、社会への問い

正直に言って、私は怒っている。
なぜ彼をここまで追い詰めたのか。
なぜ宗教団体は献金の制御を怠り、国も長年黙認してきたのか。

もちろん、罪は罪である。人を殺めることに正当化はない。
だが、彼の背後にある「社会の冷たさ」や「政治の無関心」を無視してはならない。安倍元首相の命を奪った引き金は、1人の銃ではなく、私たちの社会構造そのものだったのではないか。

裁判の結論がどうであれ、問われるべきは「再発を防ぐために何を変えるのか」だ。宗教と政治の関係、寄付制度の規制、孤立する人への支援――これらが一つでも改善されなければ、第二、第三の“山上”が生まれる恐れは残る。

彼の裁かれる姿を見ながら、私たちは「彼を裁く社会」をも同時に見つめ直さなければならない。
安倍元首相の命、そして山上徹也という一人の人間の破滅が、何も変えないまま風化するような国であってはならない。

引用元:産経新聞